●今回は中高生向け●
“drink” は「のむ」ではない
学而会 英語のおまけ箱 14箱目
英語の動詞 drink = 日本語の「のむ」ではありません。
「え?」と思う人も多いでしょうが、少し考えてみましょう。
まず、英語の drink は、どういったものを対象にするかというと、水、ジュース、コーヒー、酒などです。
固形物の食べ物には使いません。
drink は液体だけを対象にするんです。
でも、どんな液体でも良いわけではありません。
洗剤だとか有毒な液体を子どもが間違って「のむ」というときは drink は使いません。
swallow です。
家庭で使う有毒物質を含んだ液体の商品には、容器に Fatal, if swallowed と表示されているのが普通です。
㊟ fatal …「致命的な、命取りの」
if と swallowed の間に it is が省略されていると考えてください。
Fatal, if drunk とは言いません。
薬を「のむ」ときは、英語では、薬は、液体だろうが錠剤だろうが粉だろうがすべて take を使います。
drink とは言いません。
タバコを「のむ」は smoke です。
drink ではありません。
というわけで、一般的な辞書のように、drink という語を、部分的にだけ対応する日本語の「のむ」を当てはめるのは、drink の使い方を間違ってしまう恐れがあるんです。
drink というのは「人の体を維持するのに役立つ液体を、口を通して体内に入れる行為」といったような理解をすれば、正しい drink の使い方を押さえることができます。
同時に、日本語の「のむ」についても深い理解が得られます。
日本語の「のむ」は、「何かを、口を通して、かまずに、体内に摂取すること」と言えるわけです。
摂取する対象物の形状や性質はまったく気にせず、口を通して体内に入れる方法に焦点をあてた語と言えます。
ですから、ごはんは普通は「食べる」と言うのに、魚の骨がのどにささったときなど「ごはんのかたまりを『のむ』とよい」と言うのにも納得がいきます。
通常の英語の学習では、このような細かいことまで考える必要はありません。
特に、中1・2年生は、とにかく “drink” =「のむ」と、がっちり覚えておくのが大切です。
drink-drank-drunk の変化形も覚えておきましょう。
それで、学校の成績は上がります。
ただ、英語学習が非常に好きな人や大学受験生は、上で述べたようなことも、頭の隅に、ほんのちょっぴりでいいから、とどめておいてほしいと思います。
英語を学習していて、一つの英単語に訳語がいくつもある場合、「英語ってめちゃくちゃな言葉だよな」と思ってしまうかもしれませんが、英語と日本語とでは、森羅万象の切り取り方がちがうんです。
言語は、その民族の文化、思想、歴史から成りたっているものです。
別の民族の言語に、ぴったり対応するわけがないんです。
英語は、どこまでも英語であって、日本語とはちがいます。
日本語は、どこまでも日本語であって、英語とはちかいます。
今回、 drink と「のむ」の各概念・用法の違いを述べた部分は、慶應義塾大学名誉教授で言語社会学者の鈴木孝夫という人が書いた「ことばと文化」(岩波新書)という本から引用、参照しながら記したものです(10頁~13頁)。
●語り手/英語科・鈴田●