●今回は中学生向け●
謎のオオヤマゲッセンドン!
学而会 英語のおまけ箱 19箱目
外山滋比古(とやま しげひこ)という人が30年以上も前に書いた「英語辞書の使い方」(岩波ジュニア新書)という本の中に、次のような話があります。
ちなみに、外山氏はお茶の水女子大名誉教授、英文学、言語学者であり、著作が非常に多くあって、ひと昔前は、高校や大学の国語入試問題によく使われていました。
その話というのは…わたしが、ちょいアレンジして話しますけど…少年時代、外山氏の住んでいた田舎では、みんなでかけっこをするときは、「オオヤマゲッセンドン!」と、謎のかけ声をかけて走り出したんだそうです。
外山少年は「なんで大山?」「ゲッセンって何よ?」とか思いながらも、誰もこのかけ声の由来を気にする者はいないので、そのままにしておきました。
そして、何十年もたったある日、ふいに「これって英語じゃね?」と思ったんだそうです。
つまり、
On your mark.「位置について」
Get set.「用意」
Dong !(ドン!…これはピストルの発射音をマネた)
ではないかと。
それで、いろいろ調べていくと、この推理は正しいことがわかり、最終的には、大正時代にアメリカから体操の先生が持ってきたものだということまでわかったんです。
わたしはこの話を初めて読んだとき、まるで、あざやかな謎解きで終わる短編ミステリー小説の傑作を読んだときのような気持ちになり、思わず「おお!」と声をあげそうになりました。
今から百年を超える昔、いかなる事情からか、日本の田舎へアメリカから体操の先生がやって来ます。
その先生は、子どもたちに校庭でかけっこを指導します。
子どもたちに向かって、On your mark, Get set, Dong! と言って走らせたにちがいありません。
英語をまったく知らないどころか、おそらく外国人に初めて接する子どもたちには、先生のかけ声は「オオヤマゲッセンドン!」と聞こえたのでしょう。
先生がその土地を去った後も「オオヤマゲッセンドン」のかけ声だけは、地域の子どもたちの間に残っていったわけです。
現在、世界陸上やオリンピックのような世界大会では、「位置について」は、mark を複数形の marks にして言うことが多いようですね。
競技者が複数いるからでしょうか。
「用意」は単に Set.
すなわち、
On your marks.
Set.
…そしてピストルやホイッスル、
という具合です。
日本でも、今や高校や中学の大会でさえ、英語のかけ声でやるようになっているみたいです。
どんだけ英語が世界を侵食するのかよっ!と言いたくなりますが。
さすがに小学生の場合は、まだ「位置について、用意…」だと思いますけど、小学校の英語が必修科目化される波に乗って、いずれ、On your marks. Set. になるかもしれません。
どんだけ英語が世界を侵食するのかよっ!と言いたくなりますが。
あ、どういうわけか、水泳競技だと、「位置について」は Take your marks. と言っています。
●語り手/英語科・鈴田●