●今回は中高生向け●
135箱目「アカレンジャーの武器」
最近、街の書店に行ったところ、店内に「スーパー戦隊50周年記念」コラボキャンペーンを告げるポスターが貼られているのに気がつきました。
この日本の児童向け特撮テレビ番組は、50年にも渡って断続的に作られてきており、全部で40以上のシリーズとなっています。
今も新作が制作、放映されているようです。
ポスターを見て、わたしはひとつのことを思い出しました。
それは、このシリーズの一発目とされている「秘密戦隊ゴレンジャー」という作品についてです。
この作品では、メンバーのひとりに「アカレンジャー」というのがいて、他のスーパー戦隊ものと同様、コスチュームの色は赤で、戦隊のリーダー格です。
かれが使用する武器は「レッド・ビュート」といって、早い話が、ムチみたいなやつです。
他のスーパー戦隊ものと同様、武器を繰り出す際は武器の名前を「レッド・ビュート!」と、高らかに宣言します。
そうして、いつのまにか武器を手にかかえていて、敵を撃退するのです。
と、ここで日本全国のほとんどの子どもは(大人も)当時、思ったわけです。
「そっか、英語で『ムチ』は『ビュート』というのだ」と。
ところが、これは後年わかったことですが、英語には「ムチ」を意味する「ビュート」という単語なんてありません。
実は、アカレンジャーの「ビュート」の語源は、この武器を敵に繰り出すと、ビューッと一直線に伸びていく様から来ているのです。
つまり、日本語の、単なるシャレだったんです。
おそらく、原作者の石ノ森章太郎氏(日本漫画界の偉大なる先駆者です)の考案だと思われます。
アカレンジャーのこの武器は、番組内でより強力なものにバージョンアップしていくのですが、「〇〇ビュート」という名称は一貫していました。
何しろ人気番組でしたから、視聴者である子どもたちへの〔ビュート=英語の《ムチ》〕という刷り込みは、なかなか強力だったようです。
今の中高生のおじいさん、おばあさん、あるいはお父さん、お母さんのなかで、「英語で『ムチ』は『ビュート』」と思っている方がおられたら、それはアカレンジャーが原因です。
さらに「ゴレンジャー」以降も、他の特撮ヒーロー番組やテレビゲームなどで出てくる武器で、それがムチ状のモノだったら、なんとかビュートという名称がつけられることがけっこう多かったです。
「存在しない英単語を、一時期多くの人が『存在する』と思い込んでいた」というこの現象は、なかなか興味深いものがあります。
誰でもネットであっという間に情報を検索、獲得できる現代においては、決して起こることはないでしょうね。
あ、ついでに言うと、「ムチ」は英語では whip〔ウィップ〕言います。
名詞としても動詞としても使います。
●語り手/英語科・鈴田